1978年から1979年にかけてTBSの「水曜劇場」枠で放送された『ムー一族』は、従来のホームドラマの枠を超えた、実験的で型破りな作品として語り継がれています。東京・築地の近くにある老舗の足袋屋「うさぎ屋」を舞台に、家族の情と笑いが織りなす日常を描きながらも、突然歌やコント、生放送が挿入されるというユニークな演出が特徴でした。
このドラマの魅力は、何といっても豪華なレギュラー陣が繰り広げる、絶妙な掛け合いにあります。特に、郷ひろみさんと樹木希林さんの名コンビぶりや、伊東四朗さん、由利徹さん、伴淳三郎さんといった喜劇役者の力量が光っていました。
本記事では、『ムー一族』を彩った主要キャストと、彼らが演じた登場人物の関係性を徹底的に解説します。
『ムー一族』の世界観:笑いと涙が交錯する「うさぎ屋」
『ムー一族』は、演出家・久世光彦さんが「演出家としてもっとも幸せだった」と振り返るほど、制作者のアイデアが全て実現された作品です。久世さんが掲げたコンセプトは「笑い八分の涙二分」。家族の絆や人情味といったホームドラマの背骨をわずかに残しつつ、あとは笑いと道草で埋め尽くすという、斬新な試みでした。
物語の舞台となるのは、東京・新富町一丁目にある創業90年の老舗足袋屋「うさぎ屋」です。
宇崎家の中心人物たち
「うさぎ屋」の一家、宇崎家は、個性的で人間味あふれるメンバーで構成されています。
| 役名 | 俳優名 | 関係性・人物像 |
|---|---|---|
| 宇崎小春 | 渡辺美佐子 | 安男の妻。「うさぎ屋」のおかみであり、事実上、一家を支える大黒柱です。 |
| 宇崎安男 | 伊東四朗 | 「うさぎ屋」四代目主人。気が弱く、小春に頼りきっている面があります。喜劇役者としての力量を持ち、狂気を帯びた演技を久世光彦から高く評価されていました。 |
| 宇崎うらら | 南美江 | 安男の母。作中ではすでに亡くなっていますが、遺影の額縁の中で動き回ったり、真夜中の茶の間に幽霊として現れたりするユニークな存在です。 |
宇崎家の三兄妹と複雑な関係
安男と小春の間には、長男・健太郎、長女・桃子、次男・拓郎の三人の子どもがいます。
| 役名 | 俳優名 | 関係性・人物像 |
|---|---|---|
| 宇崎拓郎 | 郷ひろみ | 次男。一橋大学を目指す浪人生で、本作の実質的な主人公といわれています。家族思いな優しい一面もありますが、短気で喧嘩っ早いところも。口癖は「一応な」。家政婦の金田とは、絶妙なコミカルなやりとりを見せる名コンビです。 |
| 宇崎桃子 | 五十嵐めぐみ | 長女。ボーイッシュで男勝りな性格で、家事手伝いをしています。住職の紹介で見合いをし、誠実な人柄の正夫と婚約します。 |
| 宇崎健太郎 | 清水健太郎 | 長男。一度は家を出ていましたが、うららの四十九日に帰宅します。健太郎は、桃子とふざけ合っていた際に誤って桃子の左耳を殴ってしまい、彼女の聴力を奪ってしまった過去を重く受け止めています。さらに、宇崎家が土地を借りている大家の妻、一条ゆかりと不倫関係にあり、これが勘当の原因にもなっています。 |
爆発的な個性を放つ「うさぎ屋」の従業員と職人
宇崎家を支える従業員や職人たちも、ドラマの「笑い八分」を担う重要な存在です。
金田久美子と香川カヨコ
金田久美子(樹木希林):うさぎ屋に通う家政婦。拓郎に気があったため、「拓郎さん、拓郎さん」と世話を焼きたがり、隙あらば彼に触ろうとする姿は、コミカルなシーンを多く生み出しました。また、自分の名前を「かねださん」と間違われると、必ず「かね『た』です」と訂正するのがお約束です。
郷ひろみさんとのデュエット『お化けのロック』や『林檎殺人事件』は、番組を飛び出して大ヒットし、当時の人気歌番組にも登場するほどでした。 香川カヨコ(岸本加世子):新潟から上京した住み込みのお手伝いさん。
本作が彼女のデビュー作です。小春を実の母のように慕っており、金田さんとは喧嘩友達のような関係で、しばしばビンタの応酬を繰り広げますが、次第にカヨコもやり返すようになります。
足袋職人:徳さんと五郎
徳さん(伴淳三郎):うさぎ屋勤続50年のベテラン職人。縫製を任される信頼の厚い存在です。劇中で藍綬褒章を受章したという設定も盛り込まれました。由利徹、左とん平と並び、久世光彦作品を支えた喜劇役者の一人です。 野口五郎(左とん平):うさぎ屋の職人。短気で乱暴な口調ですが、桃子に恋心を寄せています(実りません)。金田さんとは妙に気が合いますが、あくまで喧嘩友達です。
周辺を固める個性豊かな面々
「うさぎ屋」の向かい側や、彼らの日常を取り巻く人々もまた、ドラマの個性を際立たせていました。
| 役名 | 俳優名 | 関係性・人物像 |
|---|---|---|
| 平さん | 由利徹 | うさぎ屋の向かいで履物と傘屋「近松屋」を営む主人。安男や徳さん、五郎とは飲み友達です。彼の朝食のシーンでは、彼が立ち上がると娘のとも子がひっくり返るという定番のコミカルな動作がありました。由利徹さんは、体を張ったコメディ(アチャラカ)を代表する役者として、このドラマに貢献しています。 |
| とも子 | のぐちともこ | 平さんの娘。口調や仕草が幼いように見えますが、水上文学を読み耽るような一面もあります。劇中で終盤に妊娠が判明するという展開があり、当時のプロデューサーのゴシップと結びつき、大きな話題となりました。 |
| 二階堂卓也 | 細川俊之 | 宇崎家を立ち退かせようと圧力をかける、大家の代理人。気障な振る舞いをしますが、気が弱い一面も持ちます。 |
| 二階堂の子分・八郎 | たこ八郎 | 二階堂の子分。たどたどしい口調で、言い淀むたびに二階堂に横っ面を張られますが、実は華麗なフットワークと鋭いパンチを持つ、二階堂さえも敵わない存在でした。 |
| 里中マチコ | 桂木文 | 拓郎が想いを寄せる女子高生。後に拓郎と相思相愛になっていく可能性があります。 |
| 住職 | 荒井注 | 宇崎家の檀家のお寺の住職で、安男の相談相手。赤い褌を愛用し、なぜかすぐに裸になりたがります。 |
| 一条ゆかり | 司美穂 | 健太郎の不倫相手である大家の若奥さん。お揃いのキャメルのレインコート姿で健太郎と「しのび逢いのテーマ」に乗せて密会するシーンが繰り返されました。 |
ドラマの枠を超えた「寄り道」の魅力
『ムー一族』が画期的とされるのは、単なるホームドラマに留まらず、劇中にコントや歌、生放送などのバラエティ要素を大量に組み込んだ点です。久世光彦さんは、既存のドラマ業界のタブーを破り、予定調和的ではない展開こそがドラマをより面白くすると確信していたようです。
ドラマは、多種多様なエンターテイメントが突然飛び出す、まるで多層構造の舞台のようでした。
- 生放送の試み:全39回のうち11回は生放送で行われ、その中には視聴者からのハガキを元にしたコントが演じられたり、ザ・ドリフターズが乱入したりと、ハプニングも織り交ぜながら進行しました。
- 音楽のヒット:郷ひろみさんと樹木希林さんによる『林檎殺人事件』のほか、回文「ヨノナカバカナノヨ」から生まれた日吉ミミさんの挿入歌『世迷い言』(作詞:阿久悠、作曲:中島みゆき)も劇中で歌われ、話題を呼びました。
- 他番組との連動:うさぎ屋の従業員代表として金田さんとカヨコさんが実際の人気クイズ番組『クイズダービー』に出演する設定があったり、伊東四朗さんが当時出演していたバラエティ番組『みごろ!たべごろ!笑いごろ!』のコントネタが登場したりするなど、番組の垣根を越えた遊び心が見られました。
こうした型破りな演出は、当時のテレビドラマとしては限界に挑戦するものであり、多くの視聴者を惹きつけました。
まとめ
『ムー一族』は、人情味あふれる下町の足袋屋という舞台設定を持ちながら、その本筋から大いに道草を食う「寄り道ドラマ」として、日本のテレビ史に大きな足跡を残しました。中心となる宇崎家の家族関係に加え、郷ひろみさんと樹木希林さんのコミカルなデュエットや、伊東四朗さん、由利徹さん、左とん平さんといった喜劇役者たちの瞬発力が、この作品を唯一無二のものにしています。
ドラマの最終回では、消防車がセットに放水して「うさぎ屋」が全壊するという衝撃的な幕引きを迎えつつ、出演者全員が笑顔でテーマ曲を歌い上げるフィナーレは、視聴者に強い印象を与えました。
今、改めてこの作品を見ると、当時のテレビが持っていた自由なエネルギーや、創造者と出演者が一体となって「面白いこと」を徹底的に追求した熱量が感じられるかもしれません。機会があれば、ぜひこの伝説的なドラマの世界に触れてみてはいかがでしょうか。
『ムー一族』をもう一度観たい方へ――。郷ひろみさん、樹木希林さんら豪華キャストが共演した伝説の昭和ドラマが、DVD-BOXとして今も入手可能です。VOD配信はされていないため、貴重な映像を楽しむなら楽天市場での購入が確実です。お気に入りの名場面を、手元でいつでも再生できる喜びをぜひ味わってください。
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